プロダクトの3つの価値について

プロダクトの価値というのは大きく分けて3つ存在します。 それは限定的価値、合理的価値、体験的価値の3つで、価値の強さ順に並べると「限定 > 合理 > 体験」となります。 ユーザはこれらの価値をどれだけ感じるかによってそのプロダクトを使うかどうかを決めます。

先日社内のプロダクトマネージャーの方と話をしていて、プロダクトの価値について説明してもらったことがとてもわかりやすかったのでその内容をまとめておく。

限定的価値

限定的価値とはプロダクトが扱うコンテンツ・機能がそのプロダクトにしか存在しないという価値を指します。 そのコンテンツ・機能が他の場所では得られない限定的なものなので、そのプロダクトを使う理由になります。

例えば Netflix のオリジナルコンテンツも限定的価値の 1 つです。ストレンジャー・シングスやハウス・オブ・カードは Netflix オリジナルのコンテンツであり、他のストリーミングサービスでは視聴できません。仮に Netflix の料金が高く、UI/UX が使いにくかったとしても、これらのコンテンツを視聴したいなら Netflix を使わざるを得ません。

以前アーティストのファン向けサイトを運営している方がこんなことを言っていました。 「どれだけサイトへのアクセスに時間がかかろうが、サイト内の導線が不親切だろうが、ユーザはこのプロダクトを使う。なぜならグッズやチケットはこのプロダクトからしか買えないから。UI/UXは必要ないんだよね。」

上記は極端な意見ですが、本質を捉えていると思います。ユーザはプロダクトが扱っているコンテンツ・機能が他の場所では得られないということを知っているので、どれだけ体験が悪くても使います。これが限定的価値が最も強い価値といえる理由です。

しかし限定的価値には欠点があります。限定的なものにユーザが惹かれなければ、ただターゲットが狭いニーズに答えるだけのものになります。誰も欲しくないものを限定コンテンツとして提供しても使う理由になりません。 限定的価値は提供する機能・コンテンツを見誤ると最も弱い価値とも言えるので注意が必要です。

合理的価値

合理的価値とは、同じような機能・コンテンツを持つ競合プロダクトに比べて、より安く、より多くの価値を提供することで、ユーザ にとって合理的で魅力的な価値を提供することを指します。

Spotify のプレミアム会員を例にして考えてみましょう。Spotify で配信されている楽曲数は他の音楽ストリーミングサービスよりも豊富です。ユーザは同じ金額を払うとしても Spotify に払ったほうがより多くのコンテンツを楽しめることができるので、Spotify の方が得です。これが合理的価値です。

合理的価値は、価格が安いかどうかだけでは決まりません。価格の他にプロダクトの品質、機能、顧客サポート、信頼性など、多様な側面に基づいて決定されます。ユーザは自分が支払う金額・コストに見合った価値を得ることができるかを判断し、利用するかを決めます。

「支払う金額・コストに対して見合った、もしくはそれ以上の価値を提供できているか」が重要なので、必ずしも安くすればよいわけではありません。コスパが良いかどうかですね。

体験的価値

体験的価値は、そのプロダクトを使ったときに感じる楽しさや快適さ、高い満足感を提供する価値を指します。 限定・合理的価値が他と比べて同じである場合、最後はその体験が素晴らしいものかどうかでどのプロダクトを使うかが決まります。

UI/UX の使いやすさ、洗練さやプロダクトのレスポンスの早さなどは体験的な価値と言えます。動画ストリーミングサービスの場合、 同じ動画を視聴するとき動画のロードが早く、高画質で視聴できるサービスを選ぶはずです。 しかしそもそも視聴したいコンテンツがそのプロダクトに存在しなければどれだけ体験が良くてもそのプロダクトを選ばないでしょう。 こうした理由から限定や合理的価値より、体験的価値は弱いと考えています。

デザイナーやエンジニアは持っている専門性から、体験的価値を重視しやすい傾向があります。 しかし体験的価値はプロダクト価値の中でも最も弱い分類の価値であるということを忘れないようにしましょう。こだわることは大変良いことですがね。自戒を込めて。

プロダクトマネージャーは 3 つの価値をどう考えるべきか

説明してきたそれぞれの価値の強さを根拠にすると、プロダクトを作る際は限定的価値、合理的価値、体験的価値の順に機能・コンテンツを考えていくことが良いでしょう。 ただしプロダクトの状況や目的によってどの価値を磨いていくのかを変化させていく必要があります。

Netflix も始めはオンラインで動画がすぐ視聴できるところに限定的価値がありました。しかし競合プロダクトが出現し、オンラインで動画を視聴することが当たり前になってくると、オンライン視聴自体は限定的価値とみなされなくなってきます。

そこで視聴可能なコンテンツ数を増やすことで、合理的価値を他プロダクトより高めたり、高画質化で視聴体験を良くすることで体験的価値で競い始めます。そこでも差が出なくなってきたタイミングで、今度は各プロダクトが限定コンテンツを自社で作成し始めました。再度、限定的価値を作り出そうという動きです。

このようにプロダクトに必要な価値は、世の中や競合の動きによって常に変化します。そのため今のプロダクトが何の価値を持っているかを常に考え、磨いていく必要があります。

価値の重複

限定的価値、合理的価値、体験的価値は基本的に独立した概念ですが、重複する場合もあります。 例えば限定的価値を持つプロダクトはその希少性が高いため、それ自体が体験的価値や合理的価値につながることがあるでしょう。

そのため、プロダクトマネージャーは、3 つの価値を単独で考慮するだけでなく、相互に関連することも考慮しなければいけません。

まとめ

今回プロダクトの価値について考えてみましたが、これらを整理し理解したといって良いプロダクトが作れるわけではありません。 また3つ以外にも価値は当然存在します。(たとえば社会的価値など)

しかしプロダクトの機能開発を進める際、大雑把でも「今回はプロダクトのどの価値を作る目的なのか?」をメンバーですり合わせておくだけで、その後のコミュニケーションが円滑になると感じました。

限定的価値を作る目的なら、その機能が本当に価値を生むのかを検証する必要があるため、捨てても良い前提で開発を進めるといった選択肢を取ることができるかもしれません。 また体験的価値を作る目的なら、徹底して UI/UX やパフォーマンスにこだわりを持って開発する必要があるでしょう。

プロダクトの価値についての解像度があがれば、チームをどのモードに切り替えるべきかを判断する材料の一つとして役に立つはずです。